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東京地方裁判所 平成4年(ワ)11160号 判決

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の三の建物について東京法務局立川出張所平成四年六月一五日受付第一五一八二号抵当権設定保全仮登記に基づく別紙登記目録記載の抵当権設定本登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文一項と同じ

第二  事案の概要

一  原告は、エイチ・ティ・エフ豊(現商号・株式会社ユタカ・コーポレーション。以下「ユタカ・コーポレーション」という。)との間で交わした追加担保提供の合意に基づき、被告に対し、被告がユタカ・コーポレーションから譲り受けた建物について抵当権設定登記手続を求めている。

二  争いのない事実等

1  ユタカ・コーポレーションは、平成二年三月ごろ、別紙物件目録記載の一の各土地(以下「本件各土地」という。また、同目録記載の一の各番号に従い、「1ないし5の土地」ということもある。)を買収し、これらの土地上に八階建ての建物を建築し、一ないし三階でパチンコ店を経営し、残りの階を第三者に賃貸する事業計画を立て、株式会社富士銀行東新宿支店の開設準備室(同支店の開設は同年五月一七日。以下「富士銀行」という。)にその融資を申し込んだ。ユタカ・コーポレーションは、富士銀行を窓口幹事として富士銀行、原告、ゼネラルリース株式会社(以下「ゼネラルリース」という。)の三社(以下「原告ら三社」という。)と交渉の結果、原告ら三社から各一〇億円(合計三〇億円)の融資を受けることになった。

2  そして、原告は、平成二年六月二五日、ユタカ・コーポレーションに対し、一〇億円を次の約定で貸し付けた(なお、富士銀行とゼネラルリースも、同日、ユタカ・コーポレーションに対し、同様にそれぞれ一〇億円を貸し付けた。)。

(一) 弁済期 平成七年七月二〇日

(二) 利息 年8.1パーセント。毎年一月二〇日と七月二〇日に各半年分を後払いする。

(三) 保証料 年0.5パーセント。利息と同様に支払う。

(四) 遅延損害金 年一四パーセント(日割計算)

(五) 特約

(1) 利息等を一回でも支払わなかったときは、当然に期限の利益を失う。

(2) 抵当権設定者は、原告の承諾がなければ、抵当物件である土地上に新たに建物を建築しない。原告の承諾を受けて建物を建築したときは、これを債務の担保として追加し、直ちに登記手続をする。

3  本件各土地と別紙物件目録記載の二の各建物(以下「本件旧建物」という。また、本件各土地と本件旧建物を併せて「本件各不動産」という。)について、平成二年六月二五日、本件貸金債権を被担保債権とする抵当権設定登記手続がされた(この登記手続時の本件各土地は、1、3の各土地がユタカ・コーポレーションの所有、2、4、5の各土地が被告と被告代表者である新海源四郎(以下「被告ら」という。)の共有(持分被告一〇分の四、新海源四郎一〇分の六)であった。)。なお、2、4、5の各土地は、当時、東京都立川市曙町二丁目一九三番の五宅地八七、四三平方メートル(以下「分筆前の五の土地」という。)であったが、分筆前の五の土地について本件抵当権設定登記手続がされた後、平成二年九月七日、分筆前の五の土地が2、4、5の各土地に分筆され、さらに、4、5の各土地については、同年一〇月一一日、ユタカ・コーポレーションに対して地上権設定登記手続がされた。

4  ユタカ・コーポレーションは、原告の承諾を得た上、本件旧建物を取り壊し、平成三年一二月三〇日、その敷地上に同目録記載の三の建物(以下「本件建物」という。)を新築した。しかし、本件建物は、平成四年一月一四日、被告名義の所有権保存登記手続がされた。

5  なお、東京地方裁判所は、平成四年六月一二日、原告の申立てにより、本件建物について処分禁止の仮処分命令を発し、これに基づき、本件建物に別紙登記目録記載の抵当権設定保全仮登記(東京法務局立川出張所同月一五日受付第一五一八二号)がされた(甲第六号証)。

三  争点

(原告の主張)

1 担保提供義務

ユタカ・コーポレーションは、原告に対し、本件建物が完成したときはこれに本件抵当権設定登記手続をすることを約束した。そして、被告は、原告とユタカ・コーポレーションとの約束を承知の上、ユタカ・コーポレーションから本件建物を譲り受けたので、ユタカ・コーポレーションの本件建物について本件抵当権設定義務を承継した。

2 原告は、ユタカ・コーポレーション、被告らとの間で、本件各不動産に無条件で本件抵当権を設定することを合意したものであり、4、5の各土地についてユタカ・コーポレーションに対する地上権の設定登記後、抵当権設定登記手続する合意をしたことはない。

3 原告は、ユタカ・コーポレーションに対し、建物建築資金の追加融資の約束をしたことはない。

(被告の主張)

1 地上権設定登記の後に抵当権設定登記

被告らは、ユタカ・コーポレーション、原告との間で、4、5の各土地については、被告らがユタカ・コーポレーションに対して地上権を設定し、その登記手続が完了した後に、本件抵当権設定登記手続をすることを合意した。

2 融資約束

原告ら三社からの合計三〇億円の融資は、1、3の各土地の取得のためのものであり、2の土地の取得資金、4、5の各土地についての地上権設定資金、本件各土地上に建築する建物の資金は含まれていなかった。これらの資金は、後日、原告ら三社が融資することになっていた。

3 原告の債務不履行

原告は、1、2の約束に違反して、4、5の各土地にユタカ・コーポレーションの地上権設定登記手続に先んじて本件抵当権設定登記手続をし、また、追加融資を実行しなかったため、ユタカ・コーポレーションの事業計画の実行が不可能になった。そこで、被告は、やむを得ず、本件建物の建築業者である大友建設株式会社(以下「大友建設」という。)と交渉して同会社から本件建物を買い取ったものである。したがって、被告には、原告に対し、本件建物について本件抵当権設定義務はない。

第三  争点に対する判断

一  本件抵当権設定登記について

1  乙第四号証、証人豊川忠先、被告代表者の各供述中には、4、5の各土地については、ユタカ・コーポレーションに対する地上権設定登記の後に本件抵当権設定登記をすることになっていたとの部分がある。

2  しかし、甲第一号証、第三号証の1〜7、第七号証、第一三号証の1〜11、第一四号証の1、2、乙第一〜四号証、第六、八号証、第一三号証の1〜21、第一四、一五号証、証人岸根正次、同豊川忠先の各証言、被告代表者尋問の結果によると、次の事実が認められ、この認定に反する乙第四号証の記載部分や証人豊川忠先、被告代表者の各供述部分は採用することができない。

(一) ユタカ・コーポレーションは本件各土地の購入代金等の資金に充てるために富士銀行に融資の申込みをしたので、富士銀行では、担保になる本件各土地(合計約九二坪)の価格を調査した。その結果、本件各土地の更地価格は、約三三億円(一平方メートル当たり一〇八九万円)であると鑑定評価されたため、評価額の七〇パーセントの二三億円が融資可能額とし、富士銀行と原告がそれぞれ一〇億円あて融資し、残りの一〇億円は、ゼネラルリースが融資することになった。

(二) ところが、分筆前の五の土地は、被告らが取得後一年内の譲渡になり、多額の譲渡所得税が課せられることになるため、被告らは、4、5の各土地については、ユタカ・コーポレーションに対し、地上権を設定し、平成三年になってから底地部分を譲渡することにした。原告ら三社は、本件各土地に抵当権が設定されればよいとの考えから、被告らの措置に異議を述べなかった。なお、地上権が設定される4、5の各土地が抵当権設定から除外されたり、地上権設定登記の後に抵当権設定登記手続をすると、担保価値が融資金額に満たないことになるから、原告ら三社は、異議を述べることになる。

(三) そして、平成二年六月一九日、ユタカ・コーポレーションと被告らの間で、1、2、3の各土地については売買契約(代金一九億六三九八万九〇〇〇円(一平方メートル当たり八四五万二五〇〇円))、分筆後の4、5の各土地については地上権設定契約(4の土地の設定対価一億五六四七万二〇〇〇円、5の土地の設定対価三億九〇三七万円(いずれも一平方メートル当たり六七六万二〇〇〇円))が締結された。

(四) ユタカ・コーポレーションの仲介人であった大樹企画株式会社の担当者は、平成二年六月二一日、本件各不動産の登記手続の委任をすることになっていた司法書士岩田薫(以下「岩田司法書士」という。)に対し、ファクシミリで本件各土地の分筆予定図(甲第一四号証の2)を送信したが、この図面には本件各土地に抵当権設定登記が完了後、分筆前の五の土地を2、4、5の各土地に分筆し、2の土地は所有権移転登記、4、5の各土地は地上権設定登記をするとの指示がされていた。

(五) 平成二年六月二五日、ユタカ・コーポレーションと被告の各代表者、原告ら三社の各担当者が立川グランドホテルに集合し、本件の金銭消費貸借抵当権設定契約証書(抵当証券発行特約付)(甲第一号証。以下「本件契約書」という。)等の書類を作成した。本件契約書には、本件貸金の約定の記載がある外、ユタカ・コーポレーションと被告らが本件各土地(ただし、2、4、5の各土地については分筆前の五の土地の表示)について抵当権を設定することの記載があり(なお、抵当権の設定について順序の記載はない。)、ユタカ・コーポレーションと被告の各代表者は、これに署名(ユタカ・コーポレーションは記名)押印した。その際、岩田司法書士は、本件抵当権設定登記等の手続の依頼を受け、関係書類を受領したため、被告代表者に対し、件名欄に「(株)エイチ・ティ・エフ豊への所有権移転、地上権設定及び抵当権設定(①富士一〇億、②日本抵当証券一〇億、③ゼネラルリース一〇億)」、適用欄に「立川市曙町二丁目一九三―四、―六は所有権移転、一九三―五は抵当権設定、分筆後Bは移転、D、Eは地上権」と記載し、これらの登記手続を受任したとの受理証明書(乙第六号証)を交付した。

(六) そして、本件各土地に第二の二3のとおり本件抵当権設定登記等がされたが、本件訴えが提起されるまで、被告やユタカ・コーポレーションからこれらの登記について異議は出なかった。

3  2の認定によると、ユタカ・コーポレーションと被告らは、分筆前の五の土地についてまず本件抵当権を設定することを承諾したものであり、4、5の各土地についてユタカ・コーポレーションに対する地上権設定登記が本件抵当権設定登記に優先する合意があったとは到底認められず、1の各証拠は採用することができない。ほかに4、5の各土地についてユタカ・コーポレーションに対する地上権設定登記が本件抵当権設定登記に優先する合意があったことが認められる証拠もない。

二  融資約束について

1  乙第四、一六号証、証人豊川忠先の供述中には、原告ら三社の合計三〇億円の融資は1、3の各土地の購入のためのものであり、2、4、5の各土地や本件各土地上の建物建築資金は後日追加融資されることになっていたとの部分がある。

2  しかし、一2の認定によると、ユタカ・コーポレーションの本件各土地の所有権ないし地上権の取得対価は二五億円余りであり、4、5の所有権を取得したとしても、三〇億円以内の代金額のはずであり、三〇億円が1、3の各土地の取得資金であったとする1の各証拠は到底採用することができない。

3  また、証人岸根正次は、原告がユタカ・コーポレーションに建物建築資金の追加融資の約束をしたことはないと供述し、証人豊川忠先も、融資について富士銀行が窓口になっていたため、原告ら三社が追加融資するものと理解していたと供述する。

これらの供述に照らすと、1の各証拠だけで原告がユタカ・コーポレーションに対して建物建築資金の追加融資を約束したことを認めることはできない。ほかにこの約束の事実が認められる的確な証拠もない。

三  担保提供義務について

1  一2の認定事実に甲第一、四、五号証、証人岸根正次の証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件融資の際にユタカ・コーポレーションと被告の各代表者が署名押印ないし記名押印した本件契約書には、第二の二2(五)の特約(2)の条項がある。

(二) そして、その際、ユタカ・コーポレーションの代表者は、本件旧建物を取り壊して、本件建物を建築する予定でいたため、原告に対し、本件建物に抵当権を追加設定するとの書面とその登記手続の委任状を差し入れた。

以上の認定によると、被告代表者は、ユタカ・コーポレーションが建築予定の本件建物が完成したときは、原告に対し、本件建物に抵当権を設定することを承知していたと推認され、この推認に反する被告代表者の供述部分は採用することができない。

2  甲第一二号証の1、2、乙第四、五号証、証人豊川忠先の証言、被告代表者尋問の結果によると、次の事実が認められ、この認定に反する証人豊川忠先と被告代表者の各供述部分は採用することができない。

(一) ユタカ・コーポレーションは、平成三年七月六日、請負人大友建設との間で、本件建物の建築を工期を同日から同年一二月六日までとする請負契約を締結した。

(二) 被告は、平成三年一一月三〇日、大友建設との間で、本件建物の建築を工期同日から平成四年一月一〇日とする請負契約を締結した。

(三) (二)の契約が締結されたが、建築工事の外観は、依然としてユタカ・コーポレーションを建築主として続行されているように表示されていた。

(四) そして、本件建物は、平成三年一二月三〇日、完成した。

以上認定によると、ユタカ・コーポレーションの請負契約の工期と被告の請負契約の工期、建築工事の完成時期、建築工事の外観からみて、被告がユタカ・コーポレーションの本件建物の注文主の地位を引き継いだものと認められる。

3  そして、1、2を併せ考えると、被告は、追加担保提供の特約を承諾して分筆前の五の土地に本件抵当権を設定したものであり、ユタカ・コーポレーションが本件建物の完成後に原告に対して本件建物に抵当権を設定する予定であることを知りながら、ユタカ・コーポレーションから建築中の本件建物についての請負契約上の地位を引き継ぎ、本件建物を取得したものと認められる。そうすると、被告は、原告に対し、本件建物について本件抵当権を設定する義務があるといえる。

四  結び

以上によると、原告の請求は、理由がある。

(裁判官 春日通良)

物件目録

一 土地

1 所在 東京都立川市曙町二丁目

地番 一九三番の四

地目 宅地

地積 125.90平方メートル

2 所在 東京都立川市曙町二丁目

地番 一九三番の五

地目 宅地

地積 15.34平方メートル

3 所在 東京都立川市曙町二丁目

地番 一九三番の六

地目 宅地

地積 91.10平方メートル

4 所在 東京都立川市曙町二丁目

地番 一九三番の一一

地目 宅地

地積 23.14平方メートル

5 所在 東京都立川市曙町二丁目

地番 一九三番の一二

地目 宅地

地積 57.73平方メートル

二 建物

1 所在 東京都立川市曙町二丁目一九三番地四

家屋番号 甲一一九二番

種類 居宅

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 40.49平方メートル

2 所在 東京都立川市曙町二丁目一九三番地

家屋番号 甲一一九四番

種類 店舗

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 79.33平方メートル

三 追加担保の建物

所在 東京都立川市曙町二丁目一九三番地四・同番地六・同番地一二・同番地一一、同番地五

家屋番号 一九三番四

種類 店舗

構造 鉄骨造陸屋根三階建

床面積 一階 250.72平方メートル

二階 232.50平方メートル

三階  94.50平方メートル

登記目録

登記の目的 抵当権設定

原因 平成弐年六月弐五日金銭消費貸借同日設定

債権額 金壱拾億円

弁済期 平成七年七月弐〇日但し、利息等債務の履行を遅滞した時、期限の利益を喪失する。

利息 年8.1%

利息支払期 毎年壱月弐〇日及び七月弐〇日の年弐回、各六ヶ月分を一括後払い(ただし、初回利息は年参六五日日割計算)

元本利息の支払場所 東京都千代田区大手町壱丁目五番五号

株式会社富士銀行

損害金 年壱四%(年参六五日日割計算)

特約 抵当証券を発行することができる

債務者 立川市高松町弐丁目弐五番参弐号

株式会社ユタカ・コーポレーション

抵当権者 中央区日本橋室町四丁目参番壱八号

日本抵当証券株式会社

但し、左記不動産に対する既登記抵当権との共同抵当とする。

前登記の表示

東京法務局立川出張所

立川市曙町弐丁目壱九参番の六の土地 乙区順位第壱弐番

立川市曙町弐丁目壱九参番の五の土地 乙区順位第八番

立川市曙町弐丁目壱九参番の四の土地 乙区順位第弐番

立川市曙町弐丁目壱九参番の壱弐の土地 乙区順位第弐番

立川市曙町弐丁目壱九参番の壱壱の土地 乙区順位第弐番

共同担保目録ふ第八四参号

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